とき川の小物屋さん

自然の残る埼玉県ときがわ町で、おいしい水出しコーヒーをお出ししている小物屋さんです。

 

とき川の小物屋さん

~雨が降ったらお休みで 営業時間は日暮れまで~
【お問い合せはこちらまで:090-1537-2144】
 
 

ときがわから暑中お見舞い

小物屋の本棚(10)

「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」
  バージニア・リー・バートン・作・絵 石井桃子・訳 童話館出版・刊

新型のパワーショベルに押されて役目を終えたスチームショベルの、第2の人生を描いた一冊。
古い物の良さと活躍の場を求めた物語が、温かく心に響きます。

 

「おおきな木」
  シェル・シルヴァスタイン・作・絵 本田錦一郎・訳 篠崎書林・刊

どこまでも「求める」人間の欲と、それに応えてくれる木のやさしさ。
与えられることのしあわせを改めて考えさせられる一冊。
さみしさの中にもしあわせ感で満たされます。

ときがわで生まれた絵本・「モミジと手ぬぐい」

ある 山の中ほどに、下の村からも見えるほどの 大きなモミジの木がありました。
枝をいっぱいに伸ばして、その先が いまにも地面にとどきそうな りっぱな、 でもやさしそうな木でした。

る日、村の年寄りが山へ上がってきて モミジを見上げながら

「こんなに枝を伸ばして、さぞ重かろうに。
 これじゃー 根もとに草も生えん。」

たしかに 大きなモミジのまわりには お日さまがあたらないせいか、ろくに草など生えずに 枯れ葉ばかりです。
年寄りは モミジのようすを見ながら、下の方から 少しずつ 枝を落としていきました。
切ってはながめ 切ってはながめ、最後に 地面に届きそうな枝を切ると、バサーッと音がして 残った枝がはね上がり、あたりが パッと 明るくなりました。

寄りは 頭にかぶった手ぬぐいをとり、汗をふきながら 根元に腰をおろすと、

「ホーレ これで楽になったべー」

といって、手ぬぐいを枝のあったところへ ヒョイとかけました。

山の下から 吹き上げてくる風が 気持ち良かったのでしょうか、年寄りは おもわずウトウトと 眠ってしまいました。

ばらくして 風が冷たくなり、目を覚ました年寄りは、いそいで山を下りはじめました。

「おじいさん おじいさん 忘れものだよ。」

どこかで 声がします。
そう、枝にかけた手ぬぐいです。
ドンドン遠くなるおじいさんに、手ぬぐいは いっしょうけんめい声をかけました。

「おじいさん 忘れないで。 ボクを忘れないで。」

でも 手ぬぐいの声は おじいさんには聞こえません。
とうとう見えなくなってしまいました。

「アーアッ 置いていかれちゃった。
 でも どうするんだろう。
 家にかえったら 足を洗うんだろうに・・・
 お風呂にはいったらどうするんだろう・・・」

手ぬぐいを忘れたおじいさんの心配を あれこれしてみました。

でもあたりが暗くなって 寒くなってくると、すこし心ぼそくなりはじめ、おじいさんのことよりも 自分のことの方が心配になってきました。

「あしたは さがしに来てくれるかなー。
 来なかったら どうしよう。」

考えているうちに、だんだん悲しくなってきました。

「ずいぶん長く 使ってもらったからなー。
 からだも薄くなってきたし、タバコのコゲもついてるし。
 前は まっ白でおじいさんが 両手でボクを 大きくふると、
 パン・パンっていい音がしたのに、
 このごろは ペタン・ペタンだものなー」

たい夜風が サーッと吹いて、手ぬぐいは かかっていた枝からフワッとまいあがり、ゆっくりと 枯れ葉のうえに 広がって落ちました。
今夜は お月さまもなく、いつもきれいな 星も見えません。

「アー ボクのこと もう いらないのかなー。
 すこし黄色くなってきたし・・・」

思わず手ぬぐいは 涙をながしました。

ると、今まで 手ぬぐいのことを だまって見ていたモミジが静かに言いました。

「大丈夫だよ。
 おじいさんは きっとさがしに来るよ。
 また君を 使ってくれるよ。
 私のことだって 気にして山へ 上がってきてくれた
 おじいさんだもの・・・
 元気を出して。 ホラッ。
 私は 何もしてあげられないけど・・・」

と言って ギュッと目をつむり、ブルッと枝を ゆすると、葉の先から 緑のしずくが  パタパタッ パタパタッ。
手ぬぐいの上に いくつも落ちて、小さな水玉もようが たくさんできました。

「どうだい。 すこしは気分が変わったかい。」

と、やさしく 言いました。
うすい黄色の上に 緑の水玉。
泣いていた手ぬぐいも ちょっと うれしくなって、

「ありがとう。
 朝になったら おじいさんが 迎えに来てくれるかもしれないね。」

少し元気な声で モミジにお礼を言いました。

ばらくすると、ポツリ ポツリ。
雨が降ってきました。
雨は だんだん強くなり、手ぬぐいにも バシャバシャとかかり、モミジがくれた 水玉もようにも にじんできました。
でも 夜なので はっきりとは見えません。

「アー やっぱりだめかなー。
 おじいさんは こんな僕をみて、
 いらないと思うだろうなー・・・」

涙と雨で グショグショになった手ぬぐいは、泣きつかれて いつのまにか 眠ってしまいました。

が鳴いています。
お日さまが昇って ポカポカと 暖かい朝です。
ハッ となって 目をさました手ぬぐいは、急いであたりを 見まわしました。

「おじいさんは 来てるかな・・・
 だれか上がって来るかな・・・」

でも、聞こえるのは 鳥の声ばかり。
おじいさんの姿は どこにもありません。
手ぬぐいはガッカリして、また かなしくなってきました。

そんなときです。
なにかが手ぬぐいを 持ち上げているような感じがしました。

「なんだろ。 どうしたんだろう。」

手ぬぐいはビックリしました。
でも たしかに少しずつ 少しずつ 上にあがっていきます。
そして 小さな 小さな声が 聞こえてきました。

「ウンショ、コラショ、お日さま出たぞ。
 ウンショ、コラショ、のびろや、のびろ。」

そうなんです。
モミジの枝がなくなって、お日さまが あたるようになったので、枯れ葉の下で じっと待っていた草の芽が 雨水を吸って、元気よく 伸びてきたからなんです。

「ウンショ、コラショ、お日さま出たぞ。」

お日さまがあたり、あたたかくなってきた手ぬぐいは どんどんかわきはじめて、軽くなってきました。

「ヨイショ、コラショ、風さん通れ。
 ヨイショ、コラショ、のびろや のびろ。」

草が持ち上げてくれた 手ぬぐいの下を、朝の気持ちよい風がスースーと流れて、手ぬぐいは すっかりかわきました。

く見ると、きのう モミジがくれた 緑のしずくのあとは、モミジの葉のような形になり、うすい黄色だったからだは しずくが広がって、きれいな あさぎ色になっていました。

その時です。
下の方から だれかが上がってきました。
おじいさんです。

「ホー あった あった。 ここに忘れとったか。」
「いや、でも違うかな。
 こんなもようなど なかったし、色も違うノー」

それを聞いて、手ぬぐいは あわてておじいさんに言いました。

「ボクですよ。 まちがいじゃありません。
 ボクですよ。」

でも、手ぬぐいの声は おじいさんには聞こえません。

「これ これ。
 このタバコのコゲは たしかにワシのじゃ。
 ワシの手ぬぐい じゃ。」
「それにしても モミジのもようが うつって きれいになったワイ。
 きっと 山の 神さまが わるさ したんじゃろう。
 ありがたい ありがたい。」

う言って 手ぬぐいを首にかけ、山を下りはじめました。

下から吹いてきた風に なびくように振り返った手ぬぐいは、

「モミジさん、心づくしを ありがとう。
 草のみんなも ありがとう。」

と、お礼を言って、なんども なんども 手を振り、おじいさんと うれしそうに 村へ帰って行きました。

《おしまい》

 

次回は

「風が吹くとき」
  (レイモンド・ブリッグズ・作 小林忠夫・訳 篠崎書林・刊)

「地下鉄」
  (ジミー・作・絵 宝迫典子・訳 小学館・刊)

のご紹介と、

ときがわで生まれた絵本「都幾川渓谷鉄道【夢鉄】」の掲載を予定しています。

 


 

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